こんにちは。ワンポのプロフェッサーの深野翔一朗です。同じくワンポ プロフェッサーの川井 俊介さんからバトンを渡される形で、起業ってどう始める?のSTEP6を担当したいと思います。
前回の川井 俊介さんの「コンテンツから価値の提供へ」や前々回の竹内冴さんの「起業に至った思いとは?」といった起業にかかる、至った思いのような内容から、今回はやや事務的に見えるかもしれませんが、実践編として「法人設立に関しての手続き、決め事、事業所、開業資金まで」というお話をさせていただきます。
よくある一般的な内容ではありますが、その中に私自身が経験したことなどを織り交ぜております。
法人設立手続きと申請
法人の設立です。法人を設立する場合、現在は大きく「株式会社」の形態をとるか、「合同会社」の形態をとるかを選ぶことになります。正直、自分一人で経営をする前提であれば株式会社も合同会社もそう大きくは変わりないです。
せっかくなら株式会社!となるかもしれませんが、グーグルの日本法人も合同会社です。合同会社について簡単にメリデメをまとめると下記のようなイメージです。
- 設立費用が安い
- 合同会社は原則として出資者は経営者
- 意思決定ルールは出資比率にかかわらず自由に決められる
- 役員任期の制限なし(登記不要)
- 資金調達の柔軟性は低い(外部からの出資などは難しい)
- 決算公告の義務なし
合同会社は小規模な事業や、自身がプレイヤー兼出資者として活動する場合に向きます。株式会社と比較して公的な対応コストが低い点も魅力です。
一方で複数の利害関係者が出資をするようなケースではルールがカッチリと決まっている株式会社の方が円滑に進むこともあると思います。
社名(屋号)を決める
大切なことですね。
悩みぬいて名前を決めてください。その中でも以下の点も合わせて考えてみてください。
- 類似商号には気を付ける
- 商標登録の有無を調べる
- 独自ドメインが取れるか
- 一般的すぎる名称は避ける
同じエリアや同一の業種で似た名前を使っている事業者がないかを調べましょう。勘違いの電話や問い合わせが面倒だったりします。
また、サービス名に類似をした商標が登録されていないかも確認しましょう。既存の商標と同一だったり類似しているとブランドの浸食あるいは訴訟のリスクを抱えることにもなります。
独自ドメインが取得できるかどうかを調べる
独自ドメイン(URL)が取得できるかもチェックしておきましょう。ドメインについては「お名前.com」などで検索できます。ドメインはできるだけ短く、数字や記号(ハイフン)が入らない方がスマートに見えます。
多くのケースで公式のメールアドレスとしても使うでしょうから、ドメインもスマートなものが取れるかを探してみてください。
なお、法人であればco.jpドメインが取れるので、欲しいドメインが取れないってことは少ないですが、.comなどの汎用ドメインでサービスサイトなどを運用する場合は希望ドメインが取れるかもチェックしましょう。同様にSNS(Xやinstagram)などでもアカウントが取れそうかはチェックしておくと良いです。
その社名(類似)に悪評がないかも調べる
会社名を決めたらネットでもその名前で検索してみましょう。
過去に類似の名前の会社が不祥事を起こしていたり、悪い口コミがあるなどがないかを調査しましょう。
勘違いされて良いことはありません。
社名は一般名詞はなるだけ避ける
一般名詞が社名の場合、キーワード検索をされるときに埋もれがちになります。例えば、お笑い芸人の「ニューヨーク」なんかは代表的です。検索しても大抵は米国の都市が検索結果として表示され、結果的に逆SEOが行われている状態になります。
取引先を探すときなど相手が会社を調べても出てこない=信用の無い会社と思われるリスクも高まります。
出資額を決める
法人を設立する場合は必ず「出資」を行う必要があります。
かつて株式会社の出資金は最低1000万円でしたが、現在は任意の金額です。極端な話、1円でも大丈夫です。この資金をベースとして事業活動を行っていきます。
実務上の目安としてですが、設立費用+初期の事業活動諸費用+当初数か月の活動資金(運転資金)を目安に考えましょう。
後述しますが、日本政策金融公庫のような創業融資では自己資金の充実度は審査項目となります。あまりに自己資本が低いと融資にマイナスとなります。
最近では100万円~300万円くらいを初期の出資金とする会社が多いようです。
会社を設立する
法人の設立自体は自分でもできます。
ただ、ここは司法書士といったプロに任せる方がいいです。当然手数料はかかりますが、こうしたプロに依頼をするほうが、印紙税といった税金を節約できるからです。
自分でやってもプロ(司法書士)に任せても数万円しか費用は変わらない
私自身は自分でやって、公証役場で「あー、本読んでやったでしょ。それ少し古い法律なんだよね。やり直し」と言われて何度か訂正することになった苦い思い出があります。
- 登録免許税:15万円(株式会社の場合)
- 定款認証料:5万円
- 印紙代:4万円(電子定款なら無料)
- 司法書士報酬:7万円前後
司法書士報酬はかかりますが、司法書士に依頼すれば電子定款で印紙税を節約できますのでコスト差は3万円くらいになると思います。後述定款の作成なども含めて代行できることを考えると、プロにおまかせするほうが楽だと思います。
定款(ていかん)の書き方
設立時には「定款(ていかん)」というその会社のの“憲法”と表現されることが多いです。商号・目的・本店所在地など、会社の根本規則を定め、公証人の認証(株式会社など)を経て法的効力を持ちます。
「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」のように色々と内容があるのですが、プロに任せたらきれいにまとめてくれます。
私からのアドバイスとしては、
- 目的は将来予定の事業も含め網羅的に。
- 本店所在地は「○○市」までで留めておく
- 資本金を「最低額」で記載すると増資時の手続きが楽
ということですね。特に、事業内容(目的)のところは将来の事業拡大も含めて網羅的にしておくと良いです。なるべく幅広く、解釈の余地を残しておきましょう。
なお、定款は誰かに見せるようなものではありませんが、会社のミッションを中に入れたい!という考えで自分の考えを入れることもできます。
ちょっとユニークなのはクックパッド株式会社の定款ですね。こちらは第2条(ミッション)に以下のような記載があります。
当会社は、「毎日の料理を楽しみにする」ために存在し、これをミッションとする。世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する。
これに効力があるのかどうかは別ですが、といったような内容を記載することもできます。
事業所の決定(事務所はどうする?)
設立登記と前後するかもしれませんが、事業所の場所をどうするかも考えましょう。大きく下記の4つが挙げられます。
- 自宅
- バーチャルオフィス
- レンタルオフィス
- インキュベーション施設
- 事業用物件
自宅
初期費用も不要ですし、家賃もかかりません。事業の固定費を減らせる面は高いメリットがあります。法人登記も可能ですが、賃貸物件の場合は契約書によって禁止されている場合もあります。
また、マンション名が住所だと取引所からの信用を得にくかったり、外部からの来客や従業員の往来がある場合は近隣住民などからのクレームが発生しやすい点は抑えておきましょう。
SOHO(Small Office Home Office)的に場所を選ばずに自分だけで完結する事業の場合は自宅というのは有効な選択肢です。
バーチャルオフィス
基本自宅で作業はするけど、自宅住所を公開するのは嫌という場合はバーチャルオフィスという選択肢もあります。月額数千円程度~住所を貸してくれるので郵便物などを受け取ることができます。
中には電話の受電代行などを行ってくれるところもあります。
レンタルオフィス
実際にオフィスを借りるパターンになります。フロアを複数の事業者がシェアリングをするような形になっています。WeWorkやリージャスのような全国規模で事業を展開しているところもあれば、ビルの運営会社が個別にやっているようなものもあります。
坪単価自体はやや高めですが、共同の受付などで来訪者の信用を得やすい、コピー機、会議室など共有設備が充実しているといった強みがあります。
成長期のスタートアップ、従業員増が読めない業態などに向いています。レンタルオフィスだと同じフロアの事業者との交流が生まれやすく、そこから事業が発展するようなケースもあります。
インキュベーション施設
仕組み自体はほぼレンタルオフィスと同じですが、こちらは創業期スタートアップの育成を主眼として自治体や大学、金融機関などが中心となって支援も行っているのが特徴です。
経営支援や相談、資金調達などに関連した伴走体制があることも多いです。家賃自体も公的な補助が入っているため、レンタルオフィスと比較して安いことが多いです。
一方で、入居には審査があり、事業計画の提出や面談などがあり成長のポテンシャルが問われます。また、入居可能な期間や入居期間にも上限があること多く、事業規模や規定年数などに応じて「卒業」の概念があります。
周囲は同じように成長を目指すスタートアップ企業が多いため、刺激を受けることがありますし、自治体や大学、金融機関、ベンチャーキャピタルなどとの接点が濃い点も見逃せません。
事業用物件(通常の事業用物件)
最初から創業メンバーが5人以上いるというような場合であれば事業用の物件を借りるというのも選択肢としてはあります。
とはいえ、一般的に半年~1年分の敷金が必要で、そのための什器、電源工事、ネット回線構築などの費用が掛かりますので最低でも数百万円は初期費用として見込む必要があります。
税務・許認可申請
続いては諸手続きです。
会社の設立は法務局への登記で完了しますが、それで終わりではありません。関係各所への届け出が必要となります。
税務署への届出
税理士さんに依頼してお願いするのが一般的ではありますが、事業規模が小さい場合は最初から税理士さんを入れなくても、マネーフォワードなどの会計ツールを入れることで何とかなることも多いです。
税理士さんを入れない場合は税務上の申請も自身で行う必要があります。
- 法人設立届出書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 青色申告の承認申請書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(必要に応じて)
- 適格請求書発行事業者の登録申請書
といったように色々な手続きがあります。少なくとも多くの会社にとって(1)~(3)はすぐに必要になろうかと思います。
業種ごとの許認可を取る
たとえば飲食店なら保健所の許可が必要です。ネット販売でも「酒類」を扱うなら別途免許が必要になるなどの事業を行う上での様々な申請や手続きが必要なケースがあります。
専門領域ごとに分かれていますので、自分の事業に許認可が必要かどうかは必ず確認して必要であれば手続きしてください。
資金調達先の選び方と申込
設立時の資金調達の手段とそれぞれの特徴について紹介します。その前に「融資」と「出資」の違いを理解しておく必要があります。
融資
借りたお金には利子をつけて返済する前提。経営に対する口出しをされることは原則としてありませんが、返済が滞った場合は期限の利益が喪失し、一括で返済を求められる場合があります。
出資
出資者として経営に参画する前提。直接参画しなくとも保有株式の割合に応じて経営に対して株主総会で意見を出せる。返金を求められることありません。なお、一般に経営者自身が行うものも「出資」となりますね。
出資の方がメリットが大きそうですが、経営に直接口を出されるという点は事業的にリスクがあります。特に出資者の出資割合が51%超になると事実上、経営者は事業判断に口が出せなくなります。
銀行融資
銀行からの融資は借入としての基本となります。
中でも日本政策金融公庫の創業融資が比較的現実的です。審査においては事業計画書が重要で、市場規模や競合分析、収益予測、資金使途をなるべく明確化しましょう。返済可能性や創業者の経験・能力をPRする必要があります。また、自己資本が小さいと融資可能額も小さくなります。
融資の相談自体は法人設立前からでも可能です。なるべく早めに相談をしましょう。
借金というと悪というイメージが強い人も多いかもしれませんが、事業を進めるにあたって資金力がある方がよりスケールをもった取引ができ、より効率的、スピード感のあるビジネスを展開できるケースも多いです。
たとえば、仕入れ販売を行うにしても100万円しか資金がない時はそれだけしか仕入れができず、それを販売して代金を回収してからでないと次の仕入れはできませんが、融資を利用して500万円の資金がさればそれだけたくさんの量を仕入れることができ、結果的に売り上げも大きくなります。
投資家(エンジェル・VC)からの出資
株式の一部を投資家(エンジェル投資家やベンチャーキャピタル)に持ってもらうという方法になります。
とはいえ、創業時点で外部の投資家から出資を受けるのは容易ではありませんし、仮に受けられたとしても創業者の持ち株比率(出資割合)が大幅に低下するのは否めません。
将来上場を考えているようなビジネスプランの場合、いずれエンジェル投資家やVCなどからの出資も検討することがあるかもしれませんが、少なくとも「創業」の段階では特殊なケースを除いて検討する必要はないと考えます。
クラウドファンディング
最近では「クラウドファンディング」を使った資金集めも広く行われるようになっています。ビジネスの面においてもクラファンを利用してビジネス上の資金調達を行うケースも多々見られるようになりました。
クラウドファンディングによる資金調達にはいくつかの種類があります。
- 購入型(リターン型)
- 投資型(株式型)
- 融資型(貸付型)
なかでも創業時に使えそうなのは「購入型」になると思います。
一方の投資型や融資型については創業期向けではないので割愛します。
支援者へ製品・サービスをリターンとして提供するものとなります。最も一般的なタイプですね。新商品の開発費用、店舗の開業資金といったようにビジネスの初期費用をクラウドファンディングを通じて集めて、その結果商品等をリターンとして提供するものです。
クラウドファンディングを利用するメリット
クラウドファンディングにおける資金調達のメリットは、実質的に売り上げとして資金を集めることができるという点にあります。集めた資金は返済不要です。そのため、集めた資金を使って商品の開発など、自己資金だけでは賄えない事業を推進することができます。
また、支援を集める過程においてその過程自体が将来の顧客集めや市場での注目を集めるというマーケティング効果も生み出すことになります。特にBtoCのビジネスにおいてはクラファンの成功によって資金調達となるだけでなく、ビジネスの展開まで同時に達成できるという大きなメリットがあります。
クラウドファンディングを利用するデメリット
一方でデメリットとしては手数料(10~20%程度)が発生するため、約束したリターンの内容が良すぎる場合はそのリターンの負担が大きくなりすぎるという点が挙げられます。
たとえば、製品を作り、クラファン支援者には50%OFFで製品を提供するという形で資金調達したが、実際に製造をしてみると思ったよりも原価が高くなり、実質的に赤字(資金流出)になってしまったというような話も耳にします。
また、プロジェクト自体に膨大な工数がかかる点も見過ごせません。
クラファンのプロジェクトは数日で完成するものではありません、事前の準備から根回し、プロモーションなどを含めると100時間前後の工数(作業時間)がかかるはずです。
それで期待した成果が挙げられない場合はその工数分がリスクとなります。プロジェクトを全て自分でやれたのであればよいのですが、そうでなく外部に委託するようなケースではその委託費用もばかにならないはずです。
まとめ
どちらかというと創業期における事務的な内容の広く浅い内容になってしまった感は否めませんが、法人設立に関しての手続き、決め事、事業所、開業資金までという点について自分自身の経験も踏まえて紹介をさせていただきました。